大手牛丼チェーン「吉野家」を運営する株式会社吉野家が、新卒向けの会社説明会で外国籍を理由に学生の参加を拒否していたことが明らかになりました。
事件の発端は、SNSで学生本人が吉野家から送られてきたメール画像を公開したことでした。その学生は実際には日本出身の日本国籍であるにもかかわらず、片方の親が外国籍であり、名前が外国人っぽいということから、会社側がその人を外国人であると一方的に判断して、説明会への参加を断っているように見える内容でした。
参考:吉野家「外国籍」を理由に説明会参加を拒否。学生への「お祈りメール」が拡散、謝罪
外国人の就労ビザ取得は難しい?
公開された吉野家からのメールには、以下のような一節がありました。
「外国籍の方の就労ビザの取得が大変難しく、ご縁があり内定となりました場合も、
ご入社できない可能性がございます。従いまして、大変申し訳ございませんが、
今回のご予約はキャンセルとさせていただきますことをご了承ください。」
就労ビザの取得が難しいことを理由にして、外国人の説明会参加を断っていました。
BuzzFeed Newsの記事によると、吉野家の広報担当者は取材に対して以下のように説明をしたそうです。
「技術・人文知識・国際業務ビザの取得は非常に困難であり、内定取り消しをせざるを得なくなったことが一定程度ございました」
「ビザの取得をできず内定を取り消された方の心象を慮るあまり、外国籍の方は新卒の会社説明会のご応募をいただいても参加をやむなくお断りしておりました」
この件について、入管業務を専門にする行政書士の立場から解説をしてみたいと思います。
外国人への差別的な扱いは厳禁
まず、一般論として、企業が採用の際に国籍を理由に差別的な扱いをすることは許されません。国籍で差別をしていること自体が問題ですし、そのことを説明会の参加希望者に直接伝えるのも適切な行動とは言えません。
また、公開されたメールの中ではっきりと書かれているわけではありませんが、応募者の名前などの外形的な情報だけから、その人を外国籍であると決めつけて、不当な扱いをしているのであれば、そのやり方にも大きな問題があります。
就労ビザ取得には要件を確認する
次に、広報担当者からの説明の中で気になったのは「外国人の技術・人文知識・国際業務ビザの取得は非常に困難である」という一節です。外国人が日本で働くためには、一般的に「就労ビザ」とも呼ばれる「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を取得する必要があるわけですが、それが難しいというのは本当でしょうか。
大学生などの外国人留学生が学校を卒業して日本で就職するためには、在留資格「留学」から在留資格「技術・人文知識・国際業務」への「在留資格変更許可申請」を行うことになります。
もちろん、申請さえすれば誰でも認められるというわけではないのですが、基本的な要件が満たされていて、書類に不備がなければ、ほとんどの場合は許可が出るはずです。
特に、株式会社吉野家は全国にチェーン展開をしている大企業であり、事業は安定していると判断されるため、ほかの事業規模の小さい会社に比べると就労ビザは「取りやすい」とも考えられます。
過去に外国人を採用して就労ビザが認められず、内定が取り消しになったこともあったそうですが、これは採用の際に要件をきちんと確認していなかったことが原因であると思われます。
入管業務の専門家に相談を
吉野家の採用担当者が本当にやるべきだったのは、外国人や外国人らしき応募者を一方的に採用の場から排除することではなく、外国人の就労ビザ取得のための要件について、正しい情報を得て、理解を深めることだったのではないでしょうか。
入管業務を専門にする行政書士や弁護士から適切なアドバイスを受けていれば、このような問題は発生しなかったはずです。外国人の雇用を考えている企業は、在留資格についてあらかじめ十分な知識を得ておくようにしましょう。